夜明けの旅人
空には、金平糖のような星々が、きらきらと瞬いている。
日が暮れてから、もうずいぶんと時間が経った。
少女の傍らには、ウサギ族の少女。
土の星、ヒカラビータの洞窟。――星の眠る地。
二人は入り口に陣取って、空を見上げていた。
「みんな……どうしてるかなぁ……」
ぽつりとそう言ったのは、ウサギ族の少女……ジャスミン。
コヴォマカを最初に飛び立ったのは、彼女だった。
それを追って、少女もロケットに乗り込み、飛び立ち……。
それからあとのことは、二人とも知らない。
「でも……同じ空を、見てるんじゃないかなぁ……」
ジャスミンの問いに、少女は空を指さした。
「私たちの目では確認できないけど……。
あの空のどこかに、私たちの居たコヴォマカがあるはずよ」
「……」
「もし、みんなも私たちと同じようにコヴォマカを飛び立っていたとしても……。
降り立った星は、同じように、この空の下……同じ宇宙にあるはず」
「……なんだか、難しいね」
ジャスミンが肩を竦めると、少女は彼女に向かって微笑んだ。
少女の手が、ジャスミンの頭をそっと撫でる。
「難しくないわ。私たちは、感じるだけで良いの」
少女の目が、閉じられる。
頭から離された手が、手探りで、ジャスミンの手を探し当てる。
――探し当てられた手が、握られる。
少女にならうようにして、ジャスミンもおずおずと、その目を閉じた。
「感じるだけで、いいの」
近くから、少女の声が降ってくる。
「あぁ……」
「ほら、目を閉じるだけで浮かぶ。みんなの顔が」
それは、自称クールな熱血漢の少年と。
それは、まじめで努力家な優等生の少女と。
それは、魔法を使えるサンショウウオ族の少年と。
それは、骨董市で買ってこられた古代ロボットと。
それから、私たちの、たった一人の先生。
少し会っていない、その時間が、とても長い時間に思えてくる。
ジャスミンの手を握る少女の手に、力が込められた。
「ジャスミン。もう、飛び出したりしないで。
先生を思うのはあなただけじゃないし、今のあなたは、一人じゃない」
「……」
「こうなったら、もう、待つだけの自分は終わり。
一緒に行こう、ジャスミン。先生を、捜しに」
ジャスミンが目を開くと、正面少し上に、微笑む少女の顔があった。
少し綺麗な感じで、けれどもまだ、幼さの残った顔。
聞いて、見て、思わずジャスミンは泣きそうになった。
だから、誤魔化すように、立ち上がってもう一度空を見上げる。
「じゃあ、先生も……この空の向こうに、いるんだよねっ!?」
それを見て、少女は頷いた。
「うん。……必ず」
「絶対!?」
「うん」
「本当に!!?」
暗くてよく分からなかったが、
振り返ったジャスミンの目は、少し潤んでいるように見えた。
「ジャスミンが望むのなら、絶対に」
それが何故なのかは、わからない。
けれども少女は、ただ、彼女が望んで居るであろう答えを、はっきりと口にした。
「ジャスミンが望むのなら、絶対に。
先生は、私たちに内緒で、居なくなったりしないよ」
「 」
手を伸ばし、はっきりと、もう一度繰り返す。
と、突然ジャスミンが少女の名前を呼び、飛びついた。
支えきれずに、少女はジャスミンと一緒に後ろへ倒れる。
そのままの状態で、少女はジャスミンの頭を撫でてやった。
「も、もし、一人だったら……ッ。すごく、怖かった……ッ!!」
「うん……」
「だから……っ、安心して……ッ!」
「頑張ろう、ジャスミン。
先生を見つけて……みんなで、一緒にコヴォマカに帰ろう」
ジャスミンの肩が揺れている。
嗚咽を飲み込むジャスミンの背を、少女は優しくさすった。
「あ、ほら……」
「……?」
安心しての涙だとしても、彼女の泣いている姿は、あまり見たくなかった。
つられて、自分も泣いてしまいそうだったから。
だから少女は、彼女を泣きやませる手段を探し……見つけた。
「ほら、ジャスミン。夜が……明けるよ」
うっすらと、遠くの空が明るみ始めていた。
結局二人とも、一睡も出来ていない。
けれども、少女とジャスミンは、お互いを見合って笑った。
「みんなも、コヴォマカで……同じ闇を感じて、光を感じてるのかな」
「きっと、そうに違いないよ!」
少女が呟くように言い、ぴょんと、ジャスミンが跳ねる。
遠い空を見やる少女の手を、彼女が引いた。
「 」
ジャスミンが、また、少女の名を呼ぶ。
「……うん」
少女は頷くと、ジャスミンの手を借りて立ち上がった。
――私たちの旅は、まだ、始まったばかり。
夜明けと共に、私たちは、また、旅立つ。
end
| 結局、女主ちゃんの名前を出さない作品になりました…。 最初は夢小説にでもしようかと思っていたのですが。やめちゃいました! バケツーソロジーも終わりとなりました。 素敵な作品がたくさん揃い…。満足して頂けたでしょうか? たくさんの方から作品が届き、嬉しく思いますv 皆さんあってこそのアンソロ企画…! 本当に、ありがとうございました! それでは、ここまでお付き合い頂きありがとうございましたv |